通りの記憶

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紀尾井町通り(麹町方面から) 忙しかった彼女と、暇だった僕。女性の三十は油が乗って働き盛り。男性の四十は違うのだろうか。 逢いたいときにいつも逢えたわけじゃない。当たり前だろう。そもそも、事故(それは、わざと起こしたのかもしれないけど)で始まった二人なんだから、障害は仕事だけじゃない。他にもたくさんあった。 もっと、もっと長い間、会えなくなることもあるかもしれない。そんなこと考えると、すごく怖かった。あんまり悩んじゃ駄目だなんて、彼女にはよく言ってたけど、本当は自分に言ってたんだ。 そういう時、僕はちょっとだけ遠回りだけど、紀尾井町通りを通って帰っていた。それは、彼女の姿が、ここを歩けば鮮明に思い出せたから。 今でも、鮮明に思い出せる。桜並木の光の中にいる君を。 今でも、こんなにたくさんのことを覚えている。 忘れることなんで出来ないよ。わかってる。思い出と一緒に歩いていくしかないんだってことくらい。 だからこそ、僕は小さな旅に出たんだから。
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