4 過去の密室と、妖怪について

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 ここまで考えて、俺はぶんぶんと頭を振る。  こんなこと考えるのはよそう。    まあ、椅子があるってことは、ここに座ってドラキュラ伯爵は小難しい本を読むんだろうな。  伯爵にとってはこんな絵、怖くもなんともないだろう、本人の趣味で飾っているんだから。  ともかく推理を再開しよう。  人が隠れることができるスペースがどこかにあるだろうか。  俺は不気味な天使の絵から目を離すと、改めて書庫内部を眺めた。  通路を中心線として、左右はまるで鏡あわせのように規則正しく本棚が並び、平行するように本棚を兼ねた壁面が延びている。  ほかに家具らしい家具はない。  天使の絵と、揺り椅子を除いては。  これでは何かの物陰に隠れるというのは難しいかもしれない。  身を隠すための陰となるべき物がなさすぎるからだ。  まあ、左右にそれぞれ独立して設置されている本棚、これだけが、書庫内にある大きめの家具だと言えるだろう。  しかしこの本棚、横幅が狭い。  三十センチもないかもしれない、この本棚だけは蔵書も文庫のような幅の小さな本ばかりが納められている。  数年前の三条さんは、まさにこの場所に立って、入り口から書庫内を見た。  だから、入り口とは反対側の本棚側面に、さっと身をそわせれば入り口側からは死角になるかもなんて思ったものの、この幅の狭さじゃ、もし俺くらいの体格の持ち主なら、肩と尻が出てしまうだろう。  まあ、小柄なら...子供だったらギリギリいけるかもしれないけど、可能性は薄い。  書庫に隠れていた動機は置いておくとして、子供が夜ひとりで、この怖い天使に圧力をかけられながら暗闇の中でじっと隠れていられるとは思えない。  だって高校生の俺だってイヤだから。  
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