2 森のなかの謎の洋館

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   「ここには、嫌な空気がある」  「嫌な空気、ですか?」  思わず反射的にあたりを見回してみる。  高価な調度品にかこまれた、優雅で清潔な談話室。  あたたかな午後の日光が大きな窓から入り込み、俺たちを明るく照らしてくれている。  窓の外には美しい花々が咲き乱れ、時折、野鳥が花壇のはじに舞い降りてくるのが見えた。  おいしいハーブティーとクッキー、親切な管理人さん。  山の中だから空気はきれいで、息を吸って吐くだけでも清々しい気持ちになる。  えー、つまり、ここはすごく居心地がいい。    今のこの光景、お昼のティータイムを満喫する俺と犬彦さんの姿、客観的に見ればきっとこれは、まるでどこかの避暑地の高原ペンションでのんびりバカンスを過ごしているみたいじゃないか、けっこういい感じだ。  どこがいけないのだろう?  こんな高原ペンションで休暇を過ごすというのも、俺はありだと思う。  むりやり不安要素をほじくり出すとしたら、この洋館の見た目くらいだろうか。  そりゃ、ホーンテッドマンション風ではあるけども、それは個性の域をでない程度のもの。もしかすると日が落ちて夜になり、暗くなったら、いかにもお化けが出てきちゃいそうなくらい不気味な雰囲気になるのかもしれないけど、そんなこと犬彦さんは気にしないだろう。  では、いったい何が犬彦さんを警戒させ、早く出て行きたいと思わせるのか。  犬彦さんのいう、嫌な空気、とは何なのだろうか?  念のために、くんくんと部屋の空気を嗅いでみる。  変なにおいはしない。むしろ花のいい香りがする。  ひとしきり鼻を動かしてから犬彦さんを見ると、思いっきり顔をしかめて、見下すような目つきで俺をみつめていた。  わかってますよ、こういう意味じゃないんでしょ!  顔が熱くなるのを感じながら、俺はうつむく。  「お前だって早く静岡に行って、富士宮やきそばとやらが食いたいんだろうが。  それともなんだ、貴重な三連休をこんな山奥でタイムロスしたいのか」  「うっ、それは…」  富士宮やきそば、食べたい! それから、うなぎも!  心のバイブル、静岡ガイドブックが当初の予定を思い出せと、俺の煩悩を刺激する。  そんな欲望との激しい葛藤をしていると、窓の外から車のエンジン音、それから、タイヤが地面を踏みしめながら近づいてくる音が聞こえてきた。
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