1 こんなはずじゃなかったのに...

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 犬彦さんはカブと小松菜の味噌汁を一口すすってから、話しだす。  二泊三日の旅行計画はこうだ。  まず移動手段は自家用車。運転手はもちろん犬彦さん。(犬彦さんは電車での長時間移動を好まない)車で、ここ東京から静岡を目指す。  静岡には、犬彦さんの古くからのお友達が住んでいるらしい。そこに観光がてら泊めてもらおうというわけだ。  その日からの俺にとって、静岡旅行ガイドブックは聖書となった。  暇さえあればガイドブックを眺め、静岡に行ったら犬彦さんとどこへ行こう何を食べよう何をしようと、延々とスケジュールを練った。  そんな俺の姿を見て、犬彦さんは「気の長い話だ」と鼻で笑い、友人たちは「ぜったい土産買ってこいよ!」と熱心にお土産リクエスト表を作って俺に持たせた。  予定では今頃、俺と犬彦さんは海老名のサービスエリアで、ご当地限定スイーツを満喫しているはずだったのに。  「はあ…」  なのに俺たちは今、ここがどこかもわからない森の中で途方に暮れている。  「溜息つくな、うっとおしい」  犬彦さんは俺をたしなめると、フーッと深く紫煙を吐いた。  「…すみません」   おとなしく謝っておく。  しかしだんだん腹が立ってくる。  こんな状況になったのには、犬彦さんにだって原因があるからだ。
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