16 殺人者は、この屋敷の中にいる

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 「勘違いするなよ、ガキ」  ふわふわと記憶の中を漂う、思い出さなければいけない何かの焦点がゆっくりと合わさってきて、それが見えかけた途端、犬彦さんの恫喝が聞こえたことで一気に霧散してしまう。  「俺はただ、屋敷の中に部外者が侵入している可能性はない、といっただけだ。  殺人犯がどうこうとは言ってねぇ。  さっきも言ったが、俺たちがするべきことは、さっさとここから出ていくことだけだ」  強い口調で犬彦さんがそう言うと、茜さんはしゅんと肩をすくめて口を閉じてしまった。  茜さんを黙らせると、今度は俺を見ながら犬彦さんは続きを話す。  「いいか、江蓮。  今、この屋敷の中には、俺とお前とあいつら以外、誰もいない。  だから安心して、他のやつらのことは無視しろ」  「犬彦さん…」  犬彦さんの言っていることは、よくわかる。  一番効率のいい、俺にとって最良の行動を選んでくれている。  犬彦さんの決断はいつだって正しい。  どんなときも犬彦さんに従っていれば、間違いはない。  それを俺は知っている。  だけど…この場合、本当に 正しいこと なのだろうか?  茜さんはこの出来事を、こんな機会、人生で滅多に起こるもんじゃない、自分の身を自分で守るためにも、事件を推理して犯人をみつけなければならないと楽しそうに話していた。  俺は、茜さんとまったく同じように考えているわけではないけれど、偶然にもこんな不幸に遭遇したとき、面倒ごとにはこれ以上巻き込まれたくはないと自分の保身だけを考えて、偶然にもこうして知り合えた人たち、しかも親切にしてもらったっていうのに、その人たちをほったらかして、すべてがうやむやのまま出ていくことが正しいことだとは思えない。  仮に、犬彦さんの言いつけ通り、速やかにここを出ていって、そのあと俺は、何事もなかったかのように、犬彦さんとの旅行を心の底から楽しむことができるだろうか?  答えはノーだ。  俺は、何故こんなことが起こったのかが、知りたい。  もう誰の心配もする必要がない状態で、茜さん、三条さんや有理さんと、お別れがしたい。  「すみません、犬彦さん」  どうか俺の気持ちが伝わりますようにと神様に祈りながら、犬彦さんの瞳をみつめる。  犬彦さんも俺をじっと見ている。
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