第一章

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なんだか体がほかほかとする。 さっきまで外気にさらされ冷えきっていたものが体の芯から温まっている感じだ。 頭をさわさわと大きな手で撫でられた。 気持ちいい…… はっ…いやいや、オレは今どこにいるんだ。気付くと産まれた時から一緒にいたご主人と離ればなれになっており、あてもなくふらふらとさまよっていたはずだ。そのうちに体が限界を訴え、一歩も動けなくなってしまっていた。 慌てて閉じていた目を開く。 するとさっきからずっとオレを撫でている手の持ち主が目の前にいた。 ……なんだか騙されやすそうな顔してやがるな。 そいつは屈んでいて、なぜか着ている服などは捲り上げている。 そしてまわりは湿気がひどく、何より大事な毛皮が濡れてしまっている。 …あ゛?濡れてるだと? オレはお湯のたっぷり入ったたらいに入れられ、濡れ鼠と化していた。 思わず毛が逆立ち、爪が出る。オレをこんな状況に追い込んだやつの手をひったたき、おもいきり暴れてやる。 その際自慢の爪が人を引っ掻いたような感覚がするが気にしちゃいられない。 「フシャー!!」 おまっ、このオレ様を風呂なんぞに入れようなんざ、なんてことしやがるんだ!
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