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『そろそろ夏祭りのシーズンですね。週末には、様々な地域で花火大会が…』
見ていたテレビから流れてくる女性アナウンサーの声に、つけていたテレビを切った。
3年前の夏から、僕にとって花火大会というものはいいものではなくなっていた。
叶うなら触れたくない行事だ。
テレビを切った後で、ふと昨日父親から来たメールのことを思い出した。
今年も帰ってこないのか──帰ってこないと知りながら、こんなことを長期休暇のたびにメールしてくる父親は優しいと思う。
だけど、実家には帰りづらかった。
地元には目をそむけたくなるような現実が待っているから。
特に、この時期の夏の祭りには、関わり合いたくないんだ。
そう思っていると、普段ならない電話が鳴り始める。
着信音は、何も設定していない。
基本的にかかってこない電話だから、最初のまま放置していた。
ディスプレイには「深野陽祐(フカノヨウスケ)」という文字が。
3年前から会っていない、元カノの兄貴からの電話だった。
「タカ、久しぶり。もう出てくれないかと思ってたよ」
懐かしい声が、電話越しから聞こえる。
僕のことをタカと呼ぶのは、元カノと陽祐さんだけだった。
基本的には、苗字である東月(トウヅキ)か、名前である崇史(タカフミ)で呼ばれることが多かったから。
あの日がなければ、きっともっと仲が良かったと思う相手でもある。
「少し、迷ったけど…」
少しためらいながら、言葉を次いでいく。
「陽祐さんと気まずくなるようなことがあったわけじゃないし」
それでも声は震えていた。
3年経った今でも、心はまだ怖がっている。
あの町に帰ることも、あの町で誰かに会うことも。
「前にもいったけどさ、タカが気にすることじゃない。あれは事故だ。愛佳は運が悪かったんだよ」
陽祐さんが優しく言う。
陽祐さんの妹で、僕の元カノの名前──愛佳という言葉を聞いただけで、心がぎゅっと締め付けられる。
短い恋だった。本当に、短い恋だったのに、まだ心が整理できずにいた。
その別れが、あまりに突然すぎて。
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