scene.1

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「あのな、タカはもう前に進んでもいいと思うんだ。新しい環境で友達を作って、恋をして。それなのにお前、いつも一人でいるらしいな」 陽祐さんは顔が広い。 それは愛佳と共通するところだ。 二人とも明るくて、いつも笑顔で、面倒見がよかったから。 「そっちにいる知り合いに聞いたんだから、言い逃れはできないぞ」 「聞いたんだ…」 電話越しに、控えめな苦笑が聞こえる。 だけど、僕は── 「今でも、あのときみたいになるのが恐くて」 この気持ちが支配するのだ。 言葉を紡ぐ僕の声は、震えを止めることはなかった。 「あのとき二人をきちんと別れさせなかったことも、母さんが投げつけた言葉も、きっと原因なんだろうな。  でもな、嫌かもしれないけど、一回帰って来てくれ。タカが進むためでもある。だけど、このままだと愛佳も、彷徨い続ける」 真剣すぎるその声と言っている内容に、違和感がある。 だって、愛佳はもう生きていないのに。 だけど、少し高めで明るいその声が、いつもより低く真剣なものだということだけはよく分かった。 「でも、愛佳はもう…」 「言いたいことは分かる。だけど、あの場所で浴衣を着た幽霊が出るって噂があるんだ」 冷静に装っていた声が少しだけ上ずって、興奮していることを示す。 「俺だって偶然だって思ってた。つか、思いたかったよ。けど、あのときの愛佳と浴衣の柄や髪型、背格好全部同じなんだぞ。もし、愛佳がずっとあの場所で迷ってるなら、タカに会いたいからじゃねーかって思うだろっ」 陽祐さんは優しい人だと思う。 この人は行動力があるから、僕を迎えに来て、むりやり連れていくことだってできるのに、こうやって、自発的に帰ってくるように話をしてくれる。 だからかもしれない。 「本当に愛佳に会えるなら、僕も会いたいけど」 心にとどめておこうと思った言葉を、気づけば口に出していた。 あの日からどんどん疎遠になった人とは違い、こうやって気にかけてくれる唯一の相手。陽祐さんには、僕も少しだけ、素直になれた。
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