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海沿いの寂れた路線を走る電車は、新しい車体になっていた。
真新しい電車は、前の電車とは違い、座席が横に広がる昔ながらの電車ではなく、バスのように二人で座る座席がたくさん並ぶ形になっていた。
少し違和感を感じながら、海側の座席に座り、景色を眺める。
線路沿いに等間隔にキレイに植えられている桜の木が、季節を過ぎて、寂しそうにそこにたたずんでいた。
桜の木の間から見える海は、キラキラと輝いていて、眩しいくらいだ。
愛佳と過ごしていた短い時間も、あの海のようにとても煌めいていたと思う。
今がこんなにも暗い気持ちでいるからか、二人で過ごした時間は、日を追うごとにきれいに塗り替えられていく。
愛佳が生きていたら、続いてなかった恋かもしれないのに、それはまるで永遠に続くように思えてしまうから不思議だ。
陽祐さんから電話をもらって、素直に帰ろうと思った。
僕に愛佳が見えるかどうか分からないし、本当に愛佳である保証もないし。
だけど、もし本当にそうなら、僕にはやらなければならないことがある。
父に、「今年は帰るよ」と連絡をしたときに、気づかれないように涙していたことには、あえて触れなかった。だけど、そこまで心配をかけていたことに、今更ながらに後悔する。
愛佳に最後の別れが言えなかった僕がふさぎ込んでいくのを一番知っているのは、間違えなく両親だ。
だからこそ、顔を見せなければいけなかったのに、僕は自分のことしか考えていなかったんだなと改めて思った。
車内にアナウンスが流れ、もうすぐ目的の駅だと気づく。
花火大会の会場近くの駅だからか、電車には浴衣で着飾った女の子が何人も目についた。
3年前の花火大会の日。
僕と愛佳も浴衣を着て、ここに来ていた。
一駅隣の町から電車に乗って、二人でこの駅で降りた。
慣れない浴衣を着た愛佳は、いつもより歩きにくそうにしていたのを覚えている。
後ろからゆっくりついてくるその姿が、かわいいと心から思った。
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