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そんなことを考えていたら、いつの間にか、屋台が立ち並ぶ辺りまで来ていたことに気づく。
かき氷の屋台を見て、愛佳が買いに走っていったことを思い出す。
つまずきはしないかとひやひやしたのが、いい思い出に感じる。
心が締め付けられそうな気持ちになるけど、なぜかかき氷を買わなければと思って、かき氷を買った。
普段は絶対に買わないイチゴ味。
愛佳は、迷うことなくイチゴを選んでいたから。
この地域で、一番大きな夏のイベントだけあって、たくさんの人が足を運んでいる。
喧騒に紛れて、花火の打ち上げを待つ間に、イチゴ味のかき氷を食べた。
こういうものを食べるのも久しぶりだった。
最近は、毎日の食事ですら作業に近くて、美味しいと思って食べたことはない。
『美味しいね』
愛佳が食べたなら、そう言ってくれる。
きれいな笑顔を浮かべながら。
だけど、僕はやっぱりレモンの方がいいなと心の端でちょっと思った。
打ち上がる花火の音がして、空へと視線を移す。
きれいだなって思う。
3年間、花火に関わらず、いろいろな物をシャットアウトして生きてきた。
何を見ても何も感じない、何も思わない。そんな日々を過ごしていた。
それなのに、今日ここで見る花火はきれいだと思った。
花が咲き、しだれ柳が描かれる。
光の粒が舞落ちるようにキラキラと光り輝く。
打ち上がる花火は一瞬の命だ。
だからこそ美しくて、だからこそ心に残る。
ふと横に、3年前のはしゃぎながら花火を見る愛佳がうっすら透けて見えた気がした。
すーっと涙が零れる。
あの日からずっと流れることのなかった涙が、僕の頬に伝った。
みんなが空を見上げているから、涙を流している僕に誰も気づいていないと思う。
それが何よりも救いだった。
その涙がきっかけとなって、3年前の記憶が溢れては消えていく。
いつも浮かべていた笑顔や、思い通りにならなくて拗ねた顔、友達が失恋して一緒に泣いてしまうときもあった。
思えば本当に表情が豊かな子だった。
僕は表情があまり変わらない方ではあったけど、愛佳といるときは自然に笑顔になれたような気がする。
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