嘘から出るまこと

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「どうやら恋をしてしまったらしい」  僕がそう言うと、行きつけのサテンの雇われ店長の松田はいつもそうするように莞爾として笑いサービスと称してコーヒーを差し出してきた。 ひとしきりランチを平らげたあとだったので軽めのモカ。飲むというよりは口に含むといった具合に一口。心臓はそれでも相変わらず早いビートを刻み続けている。落ち着けない。 「で、今度のお相手は?」  対して松田は平静と寸分も違わない調子で問いかけてくる。余計に息が苦しくなる。  松田とはこちらに越してきてから知り合った。趣味嗜好において通ずるところがあるとなれば、友好を深めるのにそう時間はかからない。それが世間的に見てマイノリティであればなおさらだ。だから、彼は僕の恋愛における相談役兼指南役兼友人代表、そんな感じ。  連日の猛暑日で、昼食は弁当で済ます人が増えていると今朝のニュースで言っていた。店内のカウベルは、僕の入店以降、一度も鳴っていない。気は進まなかったが、そんな状況もあいまって、もう何度目かもわからない恋の相談にかこつけたは良いものの、はてさてどこから話したものか。
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