波の音

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背中から、あなたの寝息が伝わってきました。 どんな夢を見ているのでしょう。 あなたも、私と同じように、港町で育った人。 だからでしょうか。 こんなにも、一緒にいて居心地がいいのは。 あなたは、洗濯機の音を、波の音と間違えたりはしません。 故郷が恋しくないのか、と尋ねたことがありますが、あなたは、恋しくない、と答えました。 そんなに、楽しい思い出はないから。 というのが理由。 私には、楽しい思い出がいっぱいありました。 つらいこともいっぱいあったはずなのに、思い出すのは、きらきらとした事ばかりで。 海の見える公園で、時間も忘れて友達とおしゃべり。 初めてできた彼氏と、波の音を聞きながらの散歩。 失恋や仕事で失敗したときは、ぼんやりと海を眺めていたら、気持ちがすっきりしました。 帰りたいな。 ふと、思います。 そのたびに、帰る場所なんてないんだ。 と言い聞かせます。 今までの自分、育った街、すべてを捨てようとあの時は思ったのです。 だから、旅に出たのです。 もう、二度と戻ることはないだろう。 そう思って、家を出ました。 真夜中にキャリーバックを引きずって。 あれは、逃亡だったのかもしれません。 振り返ることはしない。そう思いながら旅を続け、たどり着いたこの場所。 3年間、私は、この海のない街で生きてきました。 なのに、どうでしょうか。 洗濯機の音で、涙ぐんでしまうなんて。
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