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どこか遠くから、赤ちゃんの泣く声が聞こえます。
しばらくすると泣きやんで、波の音が聞こえてきました。
「洗濯機の音だよ」
あなたは教えてくれました。
そうだった。
ここは、海のない場所でした。
目を閉じると、故郷の海を思い出します。
フェリーターミナル、公園、商業施設などがある港町。
朝は、潮の香りの中の散歩が気持よくて、昼は、波の音を聞きながらのお弁当が贅沢で、夜は、水面に映る夜景が夢見心地で。
ここには、波の音も、潮の香りも、水面の光もない。
そう考えると急に悲しくなって、涙ぐんでしまいます。
あなたは、私に背中を向けたままだから、きっと、気づいてはいないのでしょう。
気づかせようと、わざと鼻をすすってみるのもいいかもしれないけど、それは、姑息なような気がしてやめました。
その代わりに、あなたの背中に触れてみました。
昼間は、まっすぐに伸びた背中。
まるで、空から糸で引っ張られたように、すっと姿勢の良い姿。
その姿に、私はいつも惚れ惚れしてしまうのです。
でも、今は、まあるい背中。
背中を曲げて、膝を曲げて、小さくなろうとしています。
まるで、子供みたいに、愛おしくて小さいものに。
それは、私の前だけだといいって思います。
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