波の音

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あずましい。 私の育った土地の言葉。 それは、心地よい、気持がいい、という意味です。 その言葉が、とても好きです。 あなたの腕の中にいるとき、私は、その言葉がいつも浮かびます。 すべての日本語の中で、いちばんしっくりとくる。 この街に来た時、訛りがとれなくて、恥ずかしい思いをいっぱいしました。 何を言っても笑われて。 だから、私は、笑われることを受け入れることにしました。 わざと訛ってみせて、面白い人、と思われるようにしました。 道化師。 それで、みんなが笑顔になってくれるなら、それでいいと思いました。 「お前、無理すんなよ」 そんな私に声をかけてきてくれたのが、あなたでした。 無理をしているつもりはなかったのですが、あなたの言葉で気づかされました。 こんなの、本当の私じゃないって。 でも、素直になれなくて 「無理なんてしてませんよ」 と、また訛りのあるイントネーションで答えたのでした。 それから、しばらくして、私は、仕事でミスをしました。 上司に謝罪をしたのですが、いつも演じていたキャラのせいで、気持がこもっていないと言われました。 「お前は、バカだから」 上司は、私にこう言いました。 どうして、バカと言われなければならないのか。 納得がいかなかったけれど、道化師を演じていたのは自分なのだから、言い返すことは出来ませんでした。
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