波の音

7/9
前へ
/9ページ
次へ
あなたが行きつけの居酒屋へ行きました。 ここの常連さんなのか、あなたは店主とも仲良くおしゃべりをしていました。 地元の郷土料理が自慢のお店。 私は、慣れないこの土地の料理をおそるおそる口にしました。 意外にも美味しくて感動しました。 「うまいだろ?」 「はい」 「お前のところは、こういうのないの?」 「港町なので、魚介類を使ったものが多いですよ」 「へぇ。実は、俺も港町の出身なんだ」 あなたの出身地は、私の生まれた街よりも、もっと北にある大きな港町でした。 その時まで、てっきりあなたは、この土地で、生まれ育った人なのかと思いこんでました。 「意外です。すっかり、こっちに馴染んでますね」 「だって、もう10年だからね。こっちに来て」 「そうなんですか」 「全然帰ってねーし」 「帰りたくならないですか?」 「ならないね。たまに、新鮮な魚食いたいなってぐらい」 食事が終わり、会計をする時、私は自分が支払うと申し出ました。 「いらねーよ」 「でも、私、恩返しがしたくて」 「恩返し?」 「上司からバカ呼ばわりされた時、助けてくれたじゃないですか」 「ああ、あれ?いいんだよ、そんなの」 「でも…」 「いつか、違うので返してくれよ」 結局、あなたが全部支払いました。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加