波の音

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「お前もさ、たまに新鮮な魚、食べたくなるだろ」 帰り道、あなたは尋ねてきました。 「そうですね」 「じゃあ、今度、一緒に食べに行こうか」 一緒に。 「いいんですか」 「車で2時間かかるけど、海に行って、うまい魚食おう」 そうやって、私たちは休日に一緒に車で2時間の港町へ行き、新鮮な魚を食べるということを繰り返しました。 そして、何度目かのドライブの後。 自宅アパートの前まで、送り届けてくれたあなたは、車を降りようとした私の手首をつかんで引きとめました。 「あのさ」 「はい」 「恩返し、今、欲しいんだけど」 「恩返し?」 あなたは、頷いて、私の唇をふさぎました。 なんだか、ずっと、待ちわびていたものに、出会ったような気がしました。 一緒に見た、海の波の音が、頭の奥底で響いて。 押しては返す、穏やかな音。 海が見たい。 あなたの背中に触れながら、そう感じました。
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