波の音

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風がない。 この土地で暮らして感じることです。 港町は、風が強くて、せっかくきれいに整えた髪型も、すぐに崩れてしまいます。 だけど、ここでは、そんなことを気にすることが、あまりない気がします。 当たり前のことですが、潮の香りもしない。 風もなくて、波の音もなくて、潮の香りもしない。 なんだか、無味無臭だ。と思うのです。 あなたの胸に顔をうずめて、背中に手を回すとき、無味無臭だった世界が、違うものになります。 あなたのにおい。 胸の音。 あたたかなぬくもり。 全てが、ずっと、恋焦がれていたもので。 それは、故郷の海にも似たもので。 懐かしくて、涙がこぼれそうになるのを、いつも堪えてしまいます。 海がないこの土地でも、あなたと一緒なら、生きていけそうな気がします。 あなたも、そう思ってくれているなら、どんなにか幸せでしょうか。 やっぱり、聞こえます。 あなたは、洗濯機の音って言うけれど、違います。 あれは、波の音です。
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