3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
休日の過ごしかたは至って平凡。
録りためたドラマやバラエティー番組を消化して、お昼は適当に。午後からは町をぷらついて、夕方はレンタルした映画を貪る。それで終わり。
いまどき珍しい週六日勤務だから大切な日曜日、一日だ。
それでも土曜日はおまけのようなもので、かなりの数の会社が休みに入っているため経理の仕事量などはたかが知れている。領収書をまとめたりの雑用と、あとは暇潰しの雑談で終わるからだ。
経理部はそんなだが、忙しいのは営業部だろう。接待に次ぐ接待。ゴルフ場に一緒に出向いて頭を下げて気を使い、アポの取れない契約先が遊んでいるのを捕まえて頭を下げる。
夕方、そんなことを映画を見ながら考えていると、頻繁に思い出すのは木島さんのことだった。営業部にいた男性の中でも二枚目で、仕事もできる人だから同僚のOLのあいだでも一番人気だった木島さん。飲み会の終わりでキスをした木島さん。
わたしが覚えているのはひたすらに愛おしいという感情だ。
でも彼は近くにいない。わたしが経理部に異動したのとほぼ同時に出張が決まり、今は九州の支部で働いているはずだ。
完璧なすれ違いだった。わたしが異動直後の仕事の環境に悪戦苦闘している間に出張が決まってしまい、見送ることもできずに彼は行ってしまった。じゃあねとか、またねとか、そんなおざなりの言葉もかけられなかったから余計に辛い。仕事が嫌になってしまった原因の一つであることは間違いない。
わたしはベッドでうずくまるのが癖だ。
いつまでもいつまでも、淋しさが付き纏うからかもしれない。
どこにいても思い出すから、どこにいても。
仕事のちょっとした間隙やコーヒーを飲みたくて立ち上がったとき。ドアノブを握ったとき。友人との会話の途中。階段を登りきった直後の一息のときですら。
わたしは枕に手を置くとじっと見つめる。そこに重ね合わされるはずの温もりはなく、指先からじわじわと夜の冷気に手がかじかんでいく。
それは多分わたしの心臓まで這い寄り、わたしの心までも侵食し、全身を冷たさと淋しさに浸らせる。
わたしはただ、震えるだけの夜を抱いて眠る。
最初のコメントを投稿しよう!