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月曜日の朝。気は進まず、体は重くだるい。そのせいかぎりぎりの時間に家を出る。
わたしは週初めの日課であるゴミ出しを済ませると、夏に向かう季節のなかを薄手のジャケットと一緒に駅へと歩いていく。住宅地の閑静に憧れはあるものの、わたしの給料では駅近の築年数の経過した安アパートで精一杯だ。三分も歩けばすぐに雑踏にぶつかってしまう。
その日はもう春だというのに寒かった。例年よりも気温が低く、今年は冷夏の年になりそうだという朝の天気予報を思い出しながら人を掻き分け歩く。
晴天は望めず曇り空に憂鬱としながら歩き、駅に着くと券売機の列に並ぶ。しかしわたしは待つのがめんどくさいなと溜め息をついたのと同時にはっとした。
鞄をいくら漁っても財布がない。
しまったという落胆と、そういえば玄関に置きっぱなしだったという思い起こしはわたしを走らせた。
すいませんと頭を下げながら人込みを掻き分ける心情がどれほど空しいか。
とにかくわたしは急いで歩いてきた道を逆走した。自分の家までが五分。財布を持って鍵を閉めて一分。駅まで五分の計十一分。切符も買わなければいけないから差し当たり十五分。遅刻するかしないかの電車になんとか間に合う。
でもやっぱりその計算は狂っていた。ヒールであることと人込みを掻き分けながら走ること、その二つはどちらも体力を簡単に奪っていく。わたしが鍵を開けるまでにかかった時間は十分だった。
財布は玄関のフローリングに置いてあった。肺が痛みを訴える呼吸を繰り返し、わたしは財布を手にした瞬間にへたりこんだ。もう走れそうにない。同じくもう出勤時間には間に合わない。こんなミスで。
わたしはなんだかどうでもよくなって玄関に座ってふさぎ込んだ。というより落ち込んだ。
「疲れた……」
荒くなった呼吸はおさまらない。
ぜえはあと息をしている間にわたしは、元から失いかけていたやる気を完全に失ってしまった。
仕事はつまらない。毎日毎日同じことの繰り返し。
「うんざりする……」
意外性もなにもないルーチンワークには飽き飽きだ。能無しの係長にはああでもないこうでもないと罵られるし、出世など夢のまた夢。三宅さんには申し訳ないけどわたしは十数年も平社員でいる気はさらさらない。
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