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営業部に居続けることさえできていれば仕事に夢中になっていただろう。そして木島さんともあんな風には別れなかった。離れたくなかったのに。
「木島さん……」
疲労も哀しみも飽きも希望のない未来も、なにもかもを投げ出したくなってくる。会社のせいで憂鬱になるこの気持ちも。出世なんて望めない。安い給料。安いアパート。つまらない作業。遠退いた恋。
会社がもう、わたしには苦痛でしかない。
なぜ遅刻だけでこんなに不安になるの?
なぜわたしの動機が空回りしてしまうの?
なぜ会社の空気はあの人を思い出させるの?
なぜあの場所はわたしを苦しめるの?
「もういや……」
頬を伝う。涙が流れていくのを止められない。
わたしは顔を、掌でおおった。
涙の理由。
最初は苦痛。
次第に苦悩。
わたしはフローリングの床に俯せになった。
暫時の悔やみ。
現状への逡巡。
最後に感情をなくした惰性の慟哭。
これはいったい何に対する罰なのだろうとわたしは呪っていた。
自分自身と、自分の生きた時間と、自分が生きている今を。
「わたしはなにもしてない。してきたことは努力だけ。真面目に生きて、普通のことを望んで、どうしてなにもかもがうまくいかないの? なんで成功してくれないの!」
わたしはなにもかもが嫌になり泣き続けた。
成就しない願いがただ息苦しくさせるだけで、なにも生産的なことがない。
「もういや……仕事なんてしたくない」
それは救いのない悲痛。
だってもう、世界の全てが泥になってわたしを埋め尽くすから。
「木島さん……」
わたしは疲れて、本当に疲れて、だんだんと意識を失っていった。
仕事なんて、いらない……
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