前編

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「ホント、あいつら良いよねー。だるい行事のたびに隅っこでサボれてさ」  そんな言葉を投げつけられた瞬間、日野先輩の表情は凍り付いた。  行事の休憩時間、全校生徒が集まる体育館の隅にある音響ブースで待機していた俺と先輩だけがその言葉を聞いた。俺と同じ新2年生の榊は、遠いステージの上で次の発表のための準備をしているのでもちろん聞こえないだろう。他の生徒は、トイレに行くなり外の空気を吸う為に慌ただしく俺たちの前を通り過ぎて行く。  悪意を投げつけてきたのは、見知らぬ3人の女子グループだった。上靴の色から判別すると、日野先輩と同じ新3年生のようだ。  今日は我が北葉高校の入学式だ。そして入学式のあとには新入生たち歓迎しつつ部活動なんかを紹介するPRタイムがある。そこで俺たち放送部は生徒会に協力して、体育館で使用されているマイクやスピーカーなどの音響を一手に引き受けて会をサポートしていた。  しかし、今の放送部にはこれら行事への協力が結構な重荷になっている。毎年やっていることだけれど、新2年生の俺と榊、新3年生の日野先輩の3人だけでは明らかに人手が足りない。  本当なら、俺たちこそ新入生獲得のために派手なアピールを行いたいところだけれど、音響の仕事があるからそうもいかない。  結局、アナウンサーである日野先輩がマイクで呼びかけをするだけと決まってしまった。学校行事のために尽くしている俺たちが不遇なのは、なんだか納得いかない話だ。  そんな不満を、先輩についこぼしてしまったのだけれど「気持ちはわかるけど、腐っていても仕方ないじゃない。腕の見せ所だと思って頑張りましょう」と明るい声が帰ってきた。  先輩は大人だ。俺はまだそんな風には思えなかった。
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