願棒(がんぼう)

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「やる。参拝者へのサービス」  アイスバーをスッと差しだし、彼は予想どおり無愛想な説明をした。  彼は、この神社の宮司の息子。ノラ猫目当てで、賽銭も入れない私が気に食わないらしい。よく睨んでくる。だからしゃべったことなんて一度もなかった。  それがどういう風の吹きまわしか、私の横に座り、声をかけてきたのだ。 「参拝者じゃないんですけど」  動揺する私をよそに、日向ぼっこ中の猫ちゃんが去っていく。 「……」  その姿を目で追っていると、無言の圧力をかけられた。 「……じゃ、遠慮なく」  断る理由も見つからず、恐々とアイスバーを受けとろうとしたら溶けて落ちてしまった。  気まずいムードの中、残った棒にふと視線を移した。すると、そこには『スキです』と書かれていて。 「そういうことだったんだね。むっつりスケベさん」  夏の太陽みたいな頬の彼に向かって、私は微笑みかけた。
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