第6話 花嫁と霧の庭園

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 霧深い峡谷に建つリンデガルム城の雨上がりの庭園は、より濃い霧に覆われて、数歩先の景色さえはっきりとは目視できないほどになる。  昨夜の雨は、夜明け前に降り止んだ。けれど、酷くぬかるんだ庭園の地面は、マナが一歩足を踏み出すたびに靴の先を飲み込むようで、あっという間に雨天時用のブーツが泥塗れになってしまった。 「息抜きに外の空気を吸ってきなさいだなんて言っていたけど、庭園がこの状態では息抜きになんてならないわね」  夜を徹してセイラムに付き添っていたマナを心配して、エステルは息抜きの散歩を薦めてくれた。けれど、行き先が雨と霧でぬかるんだこの庭園では、息抜きどころか気が滅入る一方だ。  独り言を口にしながら、マナはくすくすと笑いだした。 「……マナ?」  唐突に声がして、マナが歩みを止める。  霧が濃く、姿ははっきりと確認できなかったけれど、声だけで相手が誰なのかはすぐに判った。 「セイジさん……?」  思い当たった名前を呼んで、数歩前に進み出ると、目の前の霧が薄れるにつれて、相手の輪郭が徐々に鮮明になった。
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