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風を切る鋭利な音が耳に痛い。
きつく目を閉じると、マナは甲に覆われた男の腕にしがみついた。
ふわりと身体が宙に浮くような不思議な感覚のあと、目を開けると、漆黒の鱗に覆われた竜の頭の向こうに、青い空が広がっていた。
――空を飛びたい。
遠い昔、そう願ったことを、マナは思い出した。
空を飛ぶことが、こんなにも自由で開放的な気持ちになれるものだとは思わなかった。先刻までの沈んだ気持ちが嘘のようだ。
あの願いは漠然と、同調から口にした言葉だったけれど、あのひとが空を飛びたいと言ったその気持ちが、今なら理解る気がした。
「良い眺めだろう」
身を乗り出して空の旅を楽しむマナの耳に、笑いを含んだ声が届いた。
上空から眺める景色に夢中で、今自分がどういった状態にあるのかを、マナはすっかり忘れていた。
よくよく見れば、飛竜の背から落ちないよう、男の逞しい腕がマナの身体を支えていた。
見知らぬ男に抱きかかえられているというのに、何故だか嫌な感じがしないことを、マナは不思議に思った。
「昔から空を飛ぶのが夢だった。竜騎士を目指したのも、半分は夢のためだ」
「もう半分は……?」
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