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「おはようございます。こんなに朝早くからお仕事ですか?」
マナが訊ねると、わずかに遅れてセイジの声が返ってきた。
「ええ、厩舎の飛竜の餌やりです」
「まぁ、それは大変ですね」
「そうでもありませんよ」
返事は聞こえるものの、セイジが近づいて来る様子はない。
不思議に思ったマナは、跳ねる泥にもお構いなしにぬかるみのなかを歩き出した。
はっきりと相手の姿が確認できる距離まで近付いて、ようやく目にした彼の姿にマナは驚きの声をあげた。
「ずぶ濡れじゃないですか! もしかして、昨夜からずっと外に……?」
「いえ、まぁ……少々感傷に浸っていまして」
マナの問いに決まりが悪そうに答えながら、セイジが濡れた前髪を掻きあげる。
胸元からハンカチを取り出したマナが、セイジの頬をつたう水滴を拭おうとすると、セイジは一歩後退し、はぐらかすように口を開いた。
「兄上の容態は……?」
セイジに問われ、マナは表情を翳らせた。
王の間で気を失ってから、セイラムは一度も目を覚ましていない。
ベッドの上で人形のように眠るセイラムの姿を思い出し、マナは黙って首を振った。
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