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自室に戻ると、侍女のエステルに泣き出しそうな顔で出迎えられた。
涙目で訴えるエステルに平謝りしながらドレスに着替えて、マナは婚約の宴の開催を待った。
窓から見える庭園の端に、数匹の飛竜が見えた。今夜の宴に訪れた隣国リンデガルムの竜騎士達の飛竜だ。
深緑をさらに色濃くした落ち着いた色の鱗の翼竜の中に、一際目立つ漆黒の鱗の翼竜がいた。
「不思議。あの竜だけ色が違うのね」
出窓から庭園を見下ろしてマナが呟くと、エステルは浮かれた様子で口を開いた。
「リンデガルムの漆黒の翼竜は、代々王家に仕える神竜だと聞きましたよ。神だなんて大袈裟ですが、王族の騎竜であることに間違いはないようです」
どくん、と心臓が胸を打った。
エステルの言葉が正しければ、さきほどのあの男は王家の者だということになる。
あの男が、生誕祭と婚約祝いを兼ねた今日の宴に参列する隣国の王族であるならば、或いは――。
「さぁ、時間になりましたよ」
軽く頭を下げてエステルが部屋の扉を開く。
心なしか浮かれた足取りで、マナは自室を後にした。
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