929人が本棚に入れています
本棚に追加
生前、僕は恋をした。
十八で人生を終える、その前日、一夜限りの結婚生活の相手をしてくれたひとに。
おとなしくて控えめで、笑顔が可愛らしいひとだった。
初めて会った僕を相手に嫌がる様子を一切見せず、ただ黙って傍に居てくれた。
くだらない夢の話を聞いてくれた。
戦場に出て死ぬ。
それは逃れられない運命だった。明日になるのが恐ろしくて堪らなかった。
あのとき、一晩中、彼女がその手を放さずにいてくれなかったら、僕はきっと情けない最期を迎えていたことだろう。
別れの日の朝、僕は彼女に、僕のことは忘れて幸せになってほしいと伝えた。
けれど彼女は、その一生をかけて、僕を想い続けてくれた。
ただ一日、共に過ごしただけの僕を。
だから僕は、神様に願った。
もう一度彼女に愛されたいだなんて、我儘は言わない。ただ彼女には、過去に――僕に囚われることなく幸せになって欲しい。
幸せな彼女の姿が見たいのだと。
だから僕は――私は、再び巡り逢えた今度こそ、最期まで貴女を護りたい。
最初のコメントを投稿しよう!