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 生前、僕は恋をした。  十八で人生を終える、その前日、一夜限りの結婚生活の相手をしてくれたひとに。  おとなしくて控えめで、笑顔が可愛らしいひとだった。  初めて会った僕を相手に嫌がる様子を一切見せず、ただ黙って傍に居てくれた。  くだらない夢の話を聞いてくれた。  戦場に出て死ぬ。  それは逃れられない運命だった。明日になるのが恐ろしくて堪らなかった。  あのとき、一晩中、彼女がその手を放さずにいてくれなかったら、僕はきっと情けない最期を迎えていたことだろう。  別れの日の朝、僕は彼女に、僕のことは忘れて幸せになってほしいと伝えた。  けれど彼女は、その一生をかけて、僕を想い続けてくれた。  ただ一日、共に過ごしただけの僕を。  だから僕は、神様に願った。  もう一度彼女に愛されたいだなんて、我儘は言わない。ただ彼女には、過去に――僕に囚われることなく幸せになって欲しい。  幸せな彼女の姿が見たいのだと。  だから僕は――私は、再び巡り逢えた今度こそ、最期まで貴女(きみ)を護りたい。
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