第1話 花嫁の憂鬱

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「正直に言うとね、知らない土地にひとりで嫁ぐのは少し不安だったの。エステル、あなたが一緒に来てくれて、本当に嬉しいわ」 「まぁ、マナ様、勿体無いお言葉です。私で宜しければ、どうぞ花嫁道具代わりにお使いください」 「エステル、ありがとう……!」  マナが勢いよくエステルの胸に飛び込むと、わずかに動きを止めたあと、エステルは和やかに微笑んだ。  十七回目の生誕祭でリンデガルムの王子セイラムと婚約したマナは、先日、母国ラプラシアを離れ、このリンデガルム王城にやってきたばかりだ。  近日中に婚姻の儀を控えているとはいえ、城の者には余所者同然に扱われており、禁じられているわけではないにしろ、自由に城内を散策することさえ躊躇われる状況だった。  窮屈な生活を強いられている今のマナにとって、子供の頃から身の回りの世話を任せてきたエステルは唯一わがままを言える相手であり、無邪気に甘えるマナを優しく包み込んでくれる、まるで姉のような存在でもある。
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