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「マナ様、婚姻の儀まで特に予定が無いとはいえ、淑女がいつまでも寝間着のままでいけませんよ」
エステルに指摘され、「はぁい」と気の抜けた返事をすると、マナは促されるままに姿見の前に立った。
エステルは手早くマナの寝間着を脱がし、レースのあしらわれた白い肌着に着替えさせて、マナの身体をコルセットできつく締め上げた。ラプラシアから持参したお気に入りのドレスに身を包み、鏡台の椅子に腰を掛けたマナの長い髪に、慣れた手付きで白い花を編み込んでいく。
あっという間に、マナは王女の肩書きにふさわしいドレス姿に変身した。
「せっかく着替えても、エステルの他に誰にも見てもらえないのね」
大きなため息と共にベッドの上に腰を下ろし、マナは浮かない表情で嘆いた。
そもそも、この城に来てからというもの、マナは婚約者であるセイラム王子にすら会っていない。
遠方からはるばる婚約者がやってきたのだから、顔くらい覗きにきてくれても良いのではないかと思うのに。
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