第0話 ラプラシア王女の婚約

3/12

928人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
***  遠方で花火を打ち上げる音が聞こえる。  柔らかな草の絨毯の上でゆっくりと身を起こし、マナは西の空に目を向けた。  深緑に覆われた壮麗な山々を背に聳え立つラプラシア城下町の鐘塔。その向こう側に、城壁に囲われたラプラシア王城が見える。 「軽率だったかなぁ……」  小さく肩を落とし溜息をつくと、マナは濃紺色のエプロンワンピースの裾を摘み上げた。  侍女のエステルを口車にのせ、仕事着を借りて城を抜け出したことを、今更になって後悔していた。  生誕祭の朝に主役である王女が城を抜け出したなんて、今頃、城は大騒ぎだろう。  本当に、どうしてこんなことをしたのか、マナ自身もわからない。  昨夜、ラプラシア王城の玉座の間に呼び出され、父であるラプラシア国王から隣国リンデガルムの王子との婚約について知らされた。  生誕祭に王子を招き、盛大な宴を催すのだと。  王女として生まれた以上、さらなる国の発展のために、政略結婚で他国の王家に嫁ぐことは覚悟していた。事実、昨夜話を聞かされた時点では、マナは自身の婚約について一切の不満もなかった。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

928人が本棚に入れています
本棚に追加