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少女は3階の窓の外の景色を眺めた。
高台にあるこの家からは遠くの商店街まで見渡すことができる。顔までは認識できない距離だが学校から帰ってくる子どもたちの姿が見える。赤と黒のランドセル。
母親は買い物に行っているはずだ。もしかしたらここからも見えるかもしれない。
いつも通る文房具屋や玩具屋も見える。赤いランドセルの長い髪の女の子が文房具屋の前で何か見ているのを店員が接客していた。店員は恐らく男性だろうか。緑のエプロンをしていた。
通学路にあるこの文房具屋にとって小学生は良い客だった。高額ではないが、少額のものをコツコツ購入するのだ。
少女はこの景色が好きだった。あそこに見える人々はこんな風に遠くから見下ろされているとは気づかないだろう。
そんな覗き見のような行為への高揚感と全てを見ているかのような全能感に少女は酔いしれた。
例えば小さな箱庭を上から見下ろすような感覚だ。
学校から帰宅するといつも母親はいない。
少女が帰宅する前に夕食の買い出しに行くのだ。
母親が帰宅するまでが束の間の自由な時間だ。この時間だけ少女は家の中で少し安心できる。
少女はいつも決まって、3階の自分の部屋の窓の縁に腰掛ける。座っている縁を手で掴み、それを支えにお尻を浮かせる。投げ出した足で外の壁を押して、さらに身を少し窓の外に出してみる。
飛べそうな気がする。気がするだけだが。
落ちるかもしれないという不安と同時に、爽快な気持ちになる。もう少し乗り出せば落ちる。飛び降りてしまいたい衝動にも駆られる。
手を離せば…。
下を見下ろす。木が見える。真下に落ちればコンクリートに直撃するだろう。
少女は頭の中で頭が潰れて脳みそをぶち撒けた自分を想像してすぐにかき消した。
死んだら、母は悲しんでくれるだろうか。
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