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夏なんてなくなればいいのにといつも思う。
この暑い季節にさえならなければ、彼が帰ってくることを期待しなくていいのに。思い出して、こんなに苦しい思いをしなくていいのに。
彼の言葉は現実にはならないけれど、それは別の力を持っていた。毎年私を夏に縛り付ける呪いのような力。
だから私は夏が来るたびに、彼の教えに背くような言葉を口癖のように呟く。
「夏なんてなくなればいいのに」
私達は会ってはいけない。
分かっている。
「夏なんてなくなればいいのに」
もう苦しみたくない。
忘れないといけない。
「あの夏が、なくなれば……」
どんなに呟いても絶対に現実にならないことしか私は口にできない。
結局、言霊の力を誰よりも信じ、恐れているのは私自身なのだ。
口に出すと現実になってしまう。言霊の力で自分を止められなくなる。彼が私を受け入れてくれた、出発前日のあの暑い夜のように。
『私はお兄ちゃんが好き』
本心はもう二度と口にしないから、お兄ちゃんに会いたい。
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