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ならば、それを問うのは当然であった。
「善薙先輩……停止剤ってのがあれば、低温生物を何とかできるのですか?」
「いえ……倒す事は出来ません。
ただ一時的に、低温生物の行動を…。
明確に言うなら、その血液の機能を停止させる事が出来ます。」
「停止ですか……。」
俺はやや落胆しつつ、そう呟く。
どう考えても停止させる程度では、決定打にはなりえまい。
だが…俺は、ふと考えた。
要はその後、どうするかではなかろうか?――と。
「善薙先輩、因みに停止効果は、どのぐらいなんですか?」
「そうですね、個体差はあると思うのですが約48間程の効力が見込めるとの事です。」
「そうですか…。
成る程。
例えばなんですけど善薙先輩、夏地と金山さんを助けて、奴等を残らず動けなく出来たら、奴等の住み家ごと潰す事は可能ですか?」
「はい、可能です。
私もそう考えていたので手筈は整っています。
しかし、夏橋くん達が現場に行くのは相当の危険を伴います。
なので今回は歴戦の傭兵の方々に行って頂く事しました。」
「傭兵ですか?」
意外な決断だった。
確かにプロの方が戦力にはなる。
だが相手は、得体の知れない存在たる低温生物だ。
何があっても可笑しくはない。
ならば、俺が取るべき道は1つだった。
それは、その傭兵達に着いて行く事である。
そう…俺ならば、きっと想定外の危険を察知出来る筈。
「善薙先輩、俺も夏地と金山さん救出に行かせてください!」
「な…!? 何言ってるの、なっくん!?
なっくん自分が何を言ってるか、分かってるの!??
無茶だよ!」
片西が心配そうな表情で、俺を止めにかかる。
コイツのこんな表情は、何時以来だろうか?
俺の母が死んだ時か……或いは姉さんの彼氏たる裕幸さんが事故死し、姉さんが現実から逃げさった時か?
多分、片西も失う事が怖いのだろう。
片西も事故で弟を失なった経験がある。
だから、もしかしたら片西は俺に弟の姿を見ているのかも知れない。
或いは……。
(見たくなかったな…片西のこんな顔は。)
俺はふと、そんな事を考える。
正直もう見飽きていたからだ。
苦しむ顔や、悲しみに暮れる顔は――。
だが所詮、失敗すれば同じ事だ。
もし今回の事が万が一、失敗すれば恐らく低温生物の報復があるだろう。
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