4月1日 午前6時

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沢田家は、ここ京都市内ではよく見かける、間口が狭く奥行きの深い作りになっている。 俗に「うなぎの寝床」といわれる、あれ。 奥行きがやたらあるから、奥の離れまで行くと玄関のある通りより一つ先にある別通りに到達するくらいだ。 一階で寝ている両親を起こさないよう、こっそり、けれど足早に階段を下りる。 台所から通り庭へ抜けて、離れへと向かった。 母屋と違って天井の低い平屋建ての離れには、下宿人が住んでいる。 入口にうちつけられた下宿人の表札を、あらためて見た。 「高柳孝太郎」 かまぼこ板を削った板にマジックペンで書かれた、冗談みたいな表札。 沢田家の離れに住んで10年になるこの名の主が、私のプロポーズの相手だ。 格子戸の戸口に手をかけ、そろそろと開ける。 玄関とは別の通りにつながる裏口の鍵はかかっているからと、離れの入口は1年中施錠なしだ。 いつも通りすんなり開いた戸口から、奥へ目を向けた。 8畳一間の部屋と玄関口の間には一応間仕切りとなる襖があるのだけど、冬以外はあけっぱなしがデフォルトだ。 玄関開ければすぐに居住空間が広がっている状態。 向けた視線の先には床に敷かれた布団に、山ができている。 やっぱり、寝てる……。
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