アホの巫女と女神様(男)

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  ~ラデアス村・寺院~  日が真上を昇り暖かな昼時、普段ならばこの時間は農業に勤しむ者か、又は側に子供を遊ばせながら井戸端会議に興じる婦人の声がそこそこに聞こえる程度の閑散とした村でのこと。  本日に限ってはそれら行事の一切をやめ、頻りに辺りではお祭りでも始まらんかの如く誰彼の言葉が大きく飛び交う。  当然、今日は世界で最も祝福された日だからだ。  村長宅前へと集う村の住人、纏う空気は皆一様にして嬉々としたもの、そしてそんな空気を向けられる先には一人の巫女装束姿の少女が笑顔を浮かべていた。 「プリマや、確りするのだぞ?」 「…………おじいちゃん」  片や少女の横に立ち心底心配気に額に皺を寄せる老人は真っ直ぐにプリマを見つめる。  これからこの少女が向かう寺院にて行われるのは神卸しの儀式、遥か昔、衰退し人類が滅ぶ寸前まで追い込まれていた時、何処(いずこ)より現れた神子と名乗る乙女が神を地上へと降ろし様々な奇跡を起こしたと言われる。  それ以来、人は神々との契約を結んだ。  10年に一度、神託によって選ばれし巫女は神をその身に卸し、建てさせた聖地を巡り信仰を捧げよと。  そして今日がその10年目、選ばれたのが少女プリマ・ヴェーナであるが、些か問題を抱えていたりするのだ。  当人のプリマは掛けられた声に老人である村長へと向き直る、果たして少女の口から何が飛び出るか。  「ふふん、安心してよおじいちゃん!」  「そ、そうか、ならば」  ならば行って来るのだ、村長はそう言葉を伝えようと舌が動く。だが、それより早く少女の言が響いた。  「ちゃんと神様をお友達にしてくるからね!」  「……………………」  一瞬なにを言っているのか理解する事を脳が否定する、しかしそうも言ってられない事態である、老い先短い我が身の頭部に昇る熱い血液が徐々に額に太い筋を浮かべた。  比喩ではあるが瞬間、特大の雷が少女を襲う。 「この大馬鹿者がぁ!」  後に轟く説教の嵐、呆れ返る民衆と漏れる溜息、住人は知っている、彼女がかなり抜けた性格をしていることを。  右から左へと怒涛の口撃を受け流しながらニコニコと別の事を考えている阿呆な娘であると。
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