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「……………はっ!?いけない、こんなことしてる場合じゃなかった」
幻想の中で硬直した身体に自由が戻った。そこに苦笑を浮かべて己にそんな感性があったのかと多少の驚きをしつつ、敷かれた絨毯の先、祭壇へとプリマの足は進む。
距離が近付く程に空から降る光が輝きを増してる様な、そんな錯覚を感じながらもとうとうプリマは祭壇の前に到着した。
石段を上れば円状に広がるタイルと中央に鎮座する長方形の祭壇、その上には羽を象った金色の装飾が柄に刻まれた銀の短剣。
「えっと……これで指を切って血を一滴祭壇に落としたあと祈りを捧げるんだったかな?」
右手に短剣を握りうろ覚えながら記憶の引き出しを引っ掻き回す、腕を組んで頭を捻り悩む事数秒、まあやってみれば判るだろうと、気楽にこの疑問は彼方へ投げ捨てると徐に短剣の切っ先を人差し指に宛がった。
つぷりと食い込み鋭い痛みがプリマの涙腺を刺激する、即座に短剣を離せば指先からは赤色が指を伝って線を描く。
それを床に落とさぬようぞっと祭壇まで待っていき翳す、ぽたりと垂れて白を赤で汚したそこは、しかし嘘の如く白は白を保っていた。
プリマの目に映る祭壇に落着し吸い込まれていく血、なるほどこれは不可思議だ。
理解なんて到底出来そうもない、最早それはそれと割り切った方が確実に精神衛生的には遥かに良い。
閑話休題、今度は嘆息を漏らしプリマは思考をリセットする。
片膝を着き両手を重ね眼を瞑る、ただじっと黙祷し神の降臨を待つ、こんな事で本当に来るのか等と疑問に思わないでもないが、先代等が神を卸したのだから多分大丈夫だろう。
と、そんな無駄思考が巡っていると瞼越しにも感じられる強い光が周囲を照らしだした。だがまだ眼は開けられない。
教えでは降臨した神の一声を戴くまでは絶対に眼は開けるなと言い聞かされていた、はて、それは何故だったか。
暫しの沈黙、光は収まり瞼は元の暗さを取り戻し、さてはて次は神様のお声を貰うだけだがしかし。
待てどもその神様からは何も言われない、本当に神様は降臨したのだろうか、再三の疑問は不審を生み、我慢を越え、やってしまう、とうとうプリマはゆっくりとその瞼を開いた。
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