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「じゃあ、また、ね」
セルマが右手を振る。
「うん。また」
僕も右手をグーパーした。
セルマの背後の、開放された城門から雪混じりの風が吹き込んでくる。城門の外は未だ冬だ。水墨で塗りつぶしたような薄い灰色の空が広がっている。
「良い子で泣かないで待っていられる?」
僕をからかうセルマ。「寂しいからって、浮気しないでね?」
僕もセルマを半分からかって、
「心配なら、早く帰ってきたらいいよ」
「そうしたいわ。季節の巡りを早めることができたなら」
ーーーーセルマは冬を追いかけて生きる雪の精だ。
夏が来たので(僕の住む国は緯度の関係で、季節が冬と夏の二つしかない)、今日からきっかり半年間、僕とセルマは会えなくなる。
「というより」
僕は言った。
夏なんてなくなればいいのに。
そうしたら僕たち、一緒に居られる。
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