第一話

6/11
前へ
/35ページ
次へ
教室に戻る途中、安心したからか、少し事態を冷静に考えられるようになった。 この後教室戻ったら、きっとみんなから白い目で見られるだろう。 転校初日の自己紹介のすぐ後に、クラスの人気者を殴って気絶させる女なんて、どう考えてもまともじゃない。 今度こそおしとやかキャラで行こうと思っていたのに、最短記録更新だ。 覚悟を決めてドアを開けると、香蓮を見たクラス全員が詰め寄って来る。 ああ、ここまでとは……。 「ねえ、神楽橋さん、さっきの凄いね」「ライス吹っ飛んでたぞ。あれなんて技?」 みんなの表情は怒りではなく笑顔だった。 「……裡門頂肘」 理解が追い付かないまま質問に答える。 「ちーもんちょうちゅう?」「りもんちょうちゅうだろ」「すごーい!中国人?」「気功撃てる?」 「撃てないけど……。彼の事、心配じゃないの?」 「ライスなら大丈夫だよ」「ライスくんは不死身だから」「頭から血噴き出した時は『気絶する前に写真撮って』ってポーズとってたからな」 なにそれ怖い。逆に怖いでしょ、そんな奴。 それに、私みたいな暴力女、みんな怖くないのかな。 「はーい。みんな席についてー」 先生の号令で香蓮以外の全員が席に戻る。 授業中だった。 香蓮も自分の席に着き、隣の空席を見つめる。 いったいどんな人なんだろう? 授業が終わるとまたクラスメイトが何人か集まって来る。 ひとしきり質問に答えた後、来助とはどんな人なのかと質問してみる。 「ポジティブ」「ポジティブだな」「ポジティブね」「ポジティブだっぺよ」 異口同音、そのまんまでなんの参考にもならない。 「いつからああなったのかな?」 「入学当時からそうだったよね?」「そうだな」「岡田、同中だったよな」 名指しされたのは、あの席替えいじめでお馴染みの岡田だった。 「そうだな~」 席替えの件など無かったかの如く話し始める。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加