血で血を巡る話

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 今物騒なワードが出てきたよな。。 「まじで?」  それは初耳だった。  「飲まんくて良かったっちゃね。まあ、私よりも長谷川さんとか斎藤 さんの方が美味しいと思うと」  まあ、それは不幸中の幸いなのだろうか。僕は元から人外だが、キョンシーなんてかけ離れた存在に転職したいわけでもない。それに吸血鬼で困ることもそれほど多くは無いしな。現状維持は、安定的かつ効率的なのだ。でもまあ、そんなに謙遜しなくてもいいだろ。彼女の血の香だけは良かった……。ん、長谷川と斎藤? 「なぜ君は僕のターゲットを知っているんだ」   長谷川アリスと斎藤静。どちらも僕のクラスメートであり、もしも彼女がダメだったら狙うつもりだった少女たち。    キョンシーと名乗った少女は笑ってこういった。   「――だって、あの二人は魂が綺麗やったけん」  教室の窓の向こうで夕焼けに雲がかかった。オレンジ色の光が遮られて、一気に暗くなった。彼女の白くて細い足が一歩一歩僕に近づいた。 「言ったと、『キョンシーは魂が分かる』けん。人間とそれ以外も区別できる。それだけじゃなく、人間の魂も選別出来るけん」    彼女は両手で器をかたどった。僕には彼女の白い肌が混ざって、それが宙に浮く天秤にも見えた。 「――薄汚れた魂も、純白な魂も、何もかもわかってしまうんよ。紅木(アカキ)くん」    彼女の表情はその時だけ、逆光になって見えなかった。ただ声だけが物悲しく響く。彼女は僕の目の前に。    僕はこの時、身動きが出来なかった。というのも、彼女がすごく怖かったから。  人ならざる僕が初めて恐怖した。  それが、キョンシーと名乗った少女こと中貫江里(ナカヌキエリ)だった。   
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