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よひょうにはそんな女が沢山いる。さとは、そう気がついていた。
でも獣のおつうには与ひょうの本当の姿が見えなかった。いや見て見ぬふりをしていた。そして、初めて身分の違う男を愛し、身も心もお金までも尽くし切っていた。
「私が止めなさいと言っても、きっと貴女は聞かないで、それどころかそっと私との縁を切ってしまうのでしょうね。」
「いいえ、私が相談できるのは、さとさんだけなんです。私がこうして人として暮らしていることは、鶴の夫にも鶴の姉妹達にも決して言えない秘密なのです。知られれば鶴の世界から追放されてしまうから。」
「どうして鶴としての幸せな暮らしを危険にさらしてまでも人と交わるのですか?(騙されている自分を騙し続けてまで。)」
おつうは、静かに笑った。
「身分の違う私を与ひょうさんは愛してくれた。彼のように獣を人として愛してくれる存在にはもう出会えないと思うから・・・。」
(そんなことは無い、貴女は若く美しい。何より彼よりもずっと優しさを持っている。)でも、さとは何も言えなかった。
三本目の機を織らせられたおつうの身体は、最早生きていくことさえも耐えられなかった。このまま彼との生活は続けられないだろう。
そんなある日、機織部屋をひょいと与ひょうが覗いた。
「見てしまいましたね。決して見てはいけないと言ったのに。」紅色に染まった布を残しおつうは、空へと飛び立った。
与ひょうは、きっとそれを見て何も感じないだろう。
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