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──とける。
茹だるような暑さと競い合う蝉の合唱の中、思考の大半を占めているのはその言葉だった。
解けるでも溶けるでも、無論、説けるでもなく、熔ける。英語でいえば『melt』、日本語の熟語で表すならば『融解』である。
脳ミソも内臓も熱によって泥々に熔けきって、細胞単位ではなく、分子単位でばらばらになっていく──気がする。
きっと泥々からとろとろまで熔けきってから、型枠に流し込んで冷蔵庫に入れてくれたら、元通りに戻れるのではないか。
「……いや、それはさすがに無理じゃね?」
自分の思考にツッコミを入れつつ、あれもうこれ脳ミソ熔けかけてんじゃないのとか思いながら、寝返りをうった。
体温で温くなった畳から、ひんやりとした畳へ。
冷房が恋しい。今年で築二百年を迎えるこの家には、勿論、そんなものは存在せず、精々、家中の窓という窓を開け放って、できるかぎり日の当たらない部屋に移動するしかない。
「……夏なんて、なくなればいいのに」
半年経って冬が来たら、それはそれで似た台詞を吐くのだが。
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