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 たった一人のランナーも出せていないのだ。  仕方がない。相模学園高エース杉田は、今期プロ注目度ナンバー1と言われている投手なのだ。  180を越す身長。左のスリークォーターから投げられるストレートの最速は146キロ。火の玉のような迫り来る剛速球を想像していたが、日本刀のような冴えを持って、気づけばキャッチャーミットに納まっていた。反応さえままならない。  杉田の武器はストレートだけではない。視界から消えるカミソリのようなキレのあるスライダー、さらにはチェンジアップ。時折、90キロ代のスローカーブを織り混ぜてくる。  朝から晩までバットを振っている強豪高の部員でもない限り打てるはずがないのだ。  杉田の投球を見ようと、フェンスの外側には多くの相模学園高の生徒が集まっていた。その観客の中に一人だけ我が高の制服を見つけた。
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