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「夏祭りも、夏休みも、夏に関する全てが無くなれば、私達きっと幸せになれる」
でも、と彼女は声を張った。
「――今日あんなに楽しそうだった姉さんの思い出が消えるのだけは嫌なんだよね」
意外だった。涼子はこんなに素直に自分の意志を伝えられる人間だっただろうか。
僕は、涼子がこんなにはっきり意思表示をしたところを見たことがなかった。
「だからごめん、同意できませんねー。アハハ」
彼女はあっけらかんと笑ってそう言った。
彼女の言葉を聞いたことで、僕は何を思えたのか。少し考えを改めた。
まあ、それもそうか。
僕の隣の彼女は、誰よりも姉思いな、素敵な妹なのだから。
僕なんかよりも陽子さんの幸せを考えている人なのだから。
彼女が考えることに、きっと間違いなんてないのだろう。
「ねえ、明日はどこに行く」
涼子が尋ねてきた。
「そうだなあ」
夏だから、海や山に行くのもいいかもしれない。そもそも陽子さんが行きたいところはどこだろう。
きっと陽子さんならどこでも喜ぶのだろうけれども。できれば、明日の陽子さんもニコニコ笑ってくれていると嬉しい。
さあ、どこに行こう。
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