僕の陽子さん

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 窓の向こうを見た。もう18時なのに、日も暮れない空が忌々しかった。 「夏だね」  つぶやくと涼子が返した。 「でも、もうそろそろ終わるよ」  涼子のそれは、別の意味にも聞こえた。白いキャミソール、パンツルックの彼女が何を考えているなんて僕には何もわからないのだ。だったら、聞くしかない。それが僕に出来ることなのだから。   「なあ、夏ってどう思う?」  気が付くとそんな質問をしていた。今更聞いても仕様がないことを聞いてしまったと思った。  けれども、ここで中途半端に追われるわけでもなかった。    僕は僕らしく言うべきことを言うだけだ。 「僕はあの日、陽子さんが病気になってからずっと思ってたことがあるんだ」  それは僕のたったひとつの願いみたいなものだった。  僕の人生の運を全てかけたっていい。たとえこの先、絶望が待っていたとしてもこの願いを叶えてくれるのなら、なんだって乗り越えてみせる。そのためにならなんだってするつもりだ。 「――夏なんてなくなればいいのに……てさ」  夏がなくなれば、陽子さんの病気が悪化することもない。そもそも病気にならなかったかもしれない。あの夏が、今起きている夏という現象が、全部全部なくなってしまえば、きっと彼女は幸せになれたのだ。  だから僕は切に願った。けれども、誰も僕の願いを叶えてくれるものはいない。  何年たっても毎年のように夏がやってきた。  涼子はこんな返し方をした。 「そうだね。無くなればいいのに」  何故かそれは少し寂しげな声だった。
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