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「光一くん、姉さんは」
運転席の涼子が言った。涼子は陽子さんと共に僕の幼なじみである。
僕より一つ年下なのだが、元空手部で主将でもあったため、そこらの男性よりもかなり強い。そのためか、よく尻にしかれるのだ。君付けもその象徴であったりする。
しかし、さっきは彼女がいたから助かった。本当に危なかった。
助手席の僕は感謝しつつも、後ろを振り返った。
「ああ、今眠ったところ」
後部座席で眠る陽子さんは可愛らしかった。寝息が心地よいリズムを奏でていた。栗色の髪の先っぽが口に入っていた。まるで食べているみたいだ。見ていて癒やされる。
あー、僕の彼女が可愛すぎる。
ちなみに車いすは一番後ろに詰め、座席に直に座っている。これらは全て僕のいない間に涼子が一人でしたらしい。
「そっか。疲れちゃったのかな」
涼子は朗らかな笑顔を見せた。
「にしても、今日行った所は結構新しくてよかったな」
僕がそう言うと、涼子はため息をついた。
「――いいや、あそこは綺麗でもバリアフリーがなってなかったね。2階のレーンまで行くのにエスカレーターしか無いとかおかしいって。普通エレベーターだって」
「でも、投球補助する器具はあっただろ」
陽子さんは腰が曲がらないので、そういう器具が無いとボールを投げることも出来ない。
「子供用のでしょ。姉さんには小さすぎるよ」
まあ、陽子さんには適していないことはなんとなく分かっていたような気もする。
気でしかないが。
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