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鍵を出しながら、
足下に溜め息を落とした。
頭の芯がずっと
痺れたような感覚になっていて、
トラウマの反作用なのか
私の意識は“それ”を
考えることをずっと拒んでいた。
『瑞島の結婚が決まった暁には、
失恋の痛手で憔悴しきった
彼女をちゃんと差し出しますから』
下野部長の、
印象さえ変わってしまいそうな
下衆な声が私の脳内を
ざらざら撫でる。
人間って、
いやな記憶ほど何度も
頭の中で繰り返してしまう
気がする。
思い出したくないのに、
なぜなんだろう。
下野部長が私の脳内で
不快な声を何度も響かせながら、
少しずつ意識の真ん中に
連れてくるのは
ひとつの疑問だった。
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