生はまこと散華(さんげ)に尽きる

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  そう、私の意識よりも先に 唇がこぼしていた。 あんなに色んな人の 事情や胸中を知りながら、 それを鑑みてこっそりと 隠密行動をする人。 桃さまさえ手駒のように 扱おうとしているのだから、 そうとう上のほうの人なんだろう。 ……単純に考えれば、 社長とか。 そうでなければ、 取引先の重役さん……とか。 噂話から遠ざかってきた私には、 見当もつかない。 前にもこんな後悔を 軽くしたことがあるような 気がする。 のろのろと鍵を開け、 真っ暗な部屋に 足を踏み入れた。 ずっと家主の不在を 待っていたはずのわが家は 「お前なんて知らない」とでも いうように冷え切っていて、 玄関から続くフローリングは ストッキングのつま先では 痛いくらいだ。 .
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