生はまこと散華(さんげ)に尽きる

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  私の恋する瞳に 気付いたのだとしても、 自分は妻を愛しているから だめだと言って、 こちらの想いを 押し返すという選択肢が 乾先生にはあったのだ。 それに、 あの頃は嫉妬だらけで 気づきもしなかったけれど、 傷ついていたのは 私だけじゃなかった。 10年前、 何度も何度も歩んだこの道は。 私が分をわきまえず、 図々しくなってしまわないようにと 歩いた道だ。 この先に、 乾先生の奥さまが 趣味で経営している 小さなカフェレストランがある。 乾先生となにかある度、 私はこっそり遠くから 彼女の姿を見て、 みじめに帰っていたのだ。 肩までの髪を さらさらと揺らし、 私ではできそうにない きれいな微笑みを振りまきながら、 楽しそうに接客していた、 乾先生の奥さま。 .
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