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心臓が重く、
とくとくと動く。
なにもしていないのに
自分の鼓動を
感じる気がしてしまう理由は、
もうわかっていた。
乾先生の奥さまのお店は、
目の前の道路をはさんだ
向こう側に──。
「……」
足を止め、
呆然と立ち尽くす。
……乾先生の奥さまのお店は、
私の精神や心を
リセットしてくれるものだった。
だから、
ここに来てみたくなったのに。
だから、
私は私の想いを
どうにかリセットしたかったのに。
「どうして……」
わかっていたのに、
私はおろかにも
そう口にしていた。
──彼女のお店は
もうとっくに
そこから消え去って、
細長く高いビルに
変貌していた。
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