生はまこと散華(さんげ)に尽きる

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  夜は深まっているけれど、 そのビルには そこそこの年季が 入っていることが窺えた。 ゆっくりと 見上げた先にあるのは、 どこまでも深い 闇のような夜の空。 昼の空と同じように、 瞳からなにかを 吸い取る深い色は、 静かに私を 嘲り笑っているようだ。 数年前、 ネットニュースで 見かけた記事が この闇夜に フラッシュバックで甦る。 “大型トレーラーが レストランに突っ込み大惨事” “レストラン経営者と 客数名が死亡” ──レストラン経営者は女性。 乾という文字を 私は確かに見た。 まさかまさかと思って、 記憶の濁流になんとか流して 消してしまいたかったのに、 どうして私はわざわざ ここに来てしまったのだろう。 .
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